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執筆者の写真史朗 江川

考察:ガチャピンという怪物

更新日:10月30日


1. 緒言


骨格は3Dで観察するに限ります。最近は3Dモデルをアップロードしてくれるサイトが増えたので、個人的にとてもホクホクしています。中でもSketchFabには博物館標本のCTスキャンをアップロードしてくれるアカウントが多数あり、彼らをフォローして日々勉強させてもらっています。


先日、トビネズミの一種を観察していて、正面から頭蓋を見ると眼窩下孔が眼窩のように見え、それが恰もガチャピンのように見えました。「眼窩下孔に眼球を持つ動物は存在できるのか?」僕にとっては、これは手がギリギリ届きそうなちょうどいい頭の体操になるのではと直感しました。

トビネズミの一種, Allactaga bullata (MSB:Mamm:224996)


(c) Biodiversity

頻繁に脊椎動物の骨格をアップロードしてくれるアカウント。フォローおすすめです。


実際に研究していると、頑張って思いついた仮説はなかなか手放せないことがあり、それが研究の進捗を阻害することも多々(これは「熱い頭と熱い心」と表現できるでしょう)。これが暴走すると、反駁を受け入れられずに論文化してしまうリスクまであります。

ある程度ハイレベル(当社比)の考察をする経験が多ければ多いほど、そしてそれを手放す経験が多ければ多いほど、研究活動の時にお気に入りの仮説を手放せるようになると考えています。科学に対してビジネスライク(冷たい頭と冷たい心)にはなりたくないけど、ハードボイルドもしくは仏教的諦観(冷たい頭と熱い心)は身に纏いたい。本件はその練習にもちょうどいい機会かなと思い、少し時間を取りました。


あと、こちらのツイートに触発されました。



2. 形態学: 眼窩下孔は上顎領域


上顎骨には、眼窩の少し頭側~腹側に孔があります。祖先的哺乳類では三叉神経の枝(上顎神経の眼窩下神経)がココを通り、一部の齧歯類では咬筋の一部がここに入り込みます。特にヤマアラシ型(hystricomorphy)では眼窩下孔が著しく拡大しています。ガチャピンの眼窩に見えたのはこの孔を正面から見てのことでした。










Swanson et al., 2019, Proc. R. Soc. B.




ということで、眼窩下孔に眼球が位置する為には、眼球が上顎(顎骨弓の上顎突起)領域になければなりません。脊椎動物にそんなことは可能なのか...?


Dubey and Saint-Jeannet, 2017, Curr. Pathobiol. Rep.




3. 進化発生学: ガチャピンは上顎領域に眼球を作る


ということで、下記二つの仮説を案出してみました。

(A) 上顎突起が相対的に背吻側にズレて二次的に眼胞を覆う

(B) 顎前神経堤が"ホメオシス"を起こして上顎化する


こちら二つの対立仮説は、鼻孔の位置で峻別できそうです。

もしAなら→マズル吻端~腹側(i.e.,口蓋)

もしBなら→通常通りマズル吻端


孵化後のガチャピンを見るに、鼻孔が無いように見えます(*)。ということで、おそらく背側にズレた上顎突起が眼胞を覆って(つまりAのシナリオ)、そのまま正中で吻合し、結果として鼻孔は(あるとしたら)口腔の中に移動してるんじゃないかと思います。

*:

ガチャピンの骨格図には小田隆先生が描かれた有名な絵があり、鼻孔のような孔もマズルの部分に観察できます。しかしながら、これは骨格標本を実際に観察して描かれてものではなく、実は科学的な復元図であることは意外と知られていません。ガチャピンはこれまで1個体しか知れていないため、骨格標本がありません。また、ガチャピンではX線撮影でホモサピエンスの骨格が映るというアーティファクトが発生するので、CTスキャンも使えません。ちなみに、その日の収録内容によってその骨格も少しずつ変化することが知られています。


次に、眼胞を上顎領域に移動するメカニズムを考えます。

例えば、咽頭胚直前(ニワトリでいうとHH15くらい)で脳褶曲の角度がキツくなって予定嗅球領域が(脊索を跨いで)予定橋領域の腹側に接着すれば、その後の頭頚部の成長に伴い、咽頭弓に相対して脳の吻端が尾側へと落ちこみそうです。そうすれば眼胞が上顎突起の内側まで降りてこれそうです。



4. 機能_神経生理学: なぜガチャピンはそんなところに眼球を作るのか


前項のような形態形成は、未だ脊椎動物には知られていません。なので、なにかアタリを付けるなら/設定を考えるなら、ガチャピンにしかない特殊性に絡めて説明付けたいところです。ガチャピンとて進化の産物なので(?)、形態進化の背景には何かしらの選択圧があったんじゃないかと思います。


ガチャピンといえばスポーツ万能なのが特徴です。ということで、あの運動制御能力と関連した設定を考えます。


そこで、「嗅球と橋との接着を足場にして”嗅球小脳路”なるものを形成している」という設定を考えてみました。

嗅球は高周波数の神経振動を生み出すことがあり(Hunt et al., 2019, Neuropsychopharmacol)、終脳運動野と小脳を同時に刺激すると運動学習が高まるらしいです(Miyaguchi et al., 2020, J. Clin. Neurosci.)。ということで、これら二つの知見を組み合わせて「嗅球からの高周波数神経振動を終脳運動野と小脳が同時に受けてて、それがあの驚異的な運動制御の基盤になっている」という設定を考えました。

つまり、ガチャピンにとって嗅球はもはや嗅覚器ではなく、運動学習の器官になってるというシナリオです。



5. 古生物学:進化史


近年では有識者によってガチャピナイゼイションの過程が明らかにされつつあります。この説によると直立二足歩行が”完成”するまで外鼻孔が体表面に露出しています。


この説に則って進化史を復元するとすると、外適応として直立二足歩行・頭部の巨大化・吻の短縮が先行し、現生型の”完全”な直立二足歩行の成立前後からポンキッキーズのプロデューサー陣からのスポーツ選択圧がかかり、上記のような運動機能向上に至ったものと推察されます。



6.結語


ポンキッキーズの選択圧はすごい!

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