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  • 執筆者の写真史朗 江川

考察:バロサウルスを荒ぶらせる

更新日:2023年10月22日

科学者がSF的シーンと対峙した際、彼ら/僕たちはその粗探しをするべきでしょうか?その光景が面白そうであれば、僕はそこにロジック(rationale)を捻り出す方が建設的なように考えています。少なくともそっちの方が楽しいはず! ということで、今回はバロサルウスを荒ぶらせてみたいと思います。竜脚類の採餌運動のことを考えていたら副産物として思いつきました。

CC BY 2.0; Christina fights the dragon

ガーチー氏の復元図も必見!http://gurche.com/anatomical-drawings 恐竜学最前線vol.1の表紙も松村しのぶさん作でこのシチュエーションでしたね。

本稿は論証というよりはアイディアの捻りだしなので、後件肯定の誤謬ブリブリでいこうと思います。 1. 竜脚類の一般的採餌様式

哺乳類であれば、頭を下げたまま唇で葉を摘む姿がしばしば観察されます。しかしながら、筋性唇のない双弓類ではそれは期待できません。彼らは延々と食べ続けてた生き物だと思うので、何か延々と繰り返し続けてるモーションがあったんじゃないかと思います。日常的に延々と繰り返すので、運動コストも計算コストも低い筈。 では竜脚類はどういう運動で葉を摘み取っていたのでしょうか?これってあまり聞いたことないなぁと思ったので考察してみました。

1.1. 頭蓋だけを動かしてた?

まず、「頭蓋だけをクイクイ動かしてた」という仮説を思いつきました。 しかしながら、低い葉を食べてたと思しき梁龍類の後頭窩は必ずしも背腹方向にそこまで丸くない(円弧が長くない)ことに気付きます。ということで、どうやらこの説は雲行きが怪しそうです。 ディプロドクス https://sketchfab.com/3d-models/diplodocus-sub-adult-sauropod-dinosaur-skull-49dfa58ca38447b583d6a7afcab539ce cf. model inspector > matcapにすると見やすい プラテオサウルスよりは丸いけど、ニジェールサウルスやカマラサウルスよりは丸くない印象。 https://sketchfab.com/3d-models/plateosaurus-skulls-nhmw-geo-202100470001-5c82a4f6efb447f79efefed21f58ba3d https://sketchfab.com/3d-models/nigersaurus-taqueti-rough-a845da1297fe46b682a2fe29928c68d0 https://sketchfab.com/3d-models/camarasaurus-juvenile-sauropod-dinosaur-skull-86025a04cf524aadbda817b589ddee13

1.2. 頸を上下に動かしてた?

次に思いついたのは「頸全体を上下ビヨンビヨンに動かしていた」という仮説です。 脊椎の背側には項靭帯が走ってるので、その弾性を利用すれば頸全体をビヨンビヨン動かせそうです。これなら運動コスパも計算コスパも良さそうです。 以下、妄想を続けます。

この運動を開始/調節するのを筋収縮だけに頼っていたらちょっと面白くないなぁと、イタズラ心が湧いてきてしまったので、ここで気嚢に登場してもらいます。

胸郭から頸気嚢へ呼吸気が送られてくれば空力的な力で頸が真っ直ぐになりそうです(Schwarz-Wings and Frey, 2008)。重力で頸が下がったタイミングでこれが起これば背屈になるでしょう。頸気嚢のメインの憩室は軸下にあるので、これも背屈には都合が良さそうです。

cf. 彼らの呼気周期の予想がつかないので採餌運動周期としてどのくらい妥当なのかは判らない。

(Schwarz-Wings and Frey, 2008, Palaeontologia Electronica)


2.バロサウルスを荒ぶらせる

この頸運動機構を転用すれば、バロサウルスに荒ぶってもらえることに気が付きました。バロサウルスが荒ぶれない最大の理由は、脳に血液を送れなくなることだと思います。ということで、荒ぶったバロサウルスの脳に血液を送ります。


しばしば血管には逆流防止弁ができることがあります。なので、主要な動脈を全体的に押し潰せれば順方向に血液を送れそうです。

カモの第7頸椎の断面 (Landolt and Zweers, 1985, Neth. J. Zool.)


2.1. 頸動脈


上体を起こす際は頸が垂直に近づくので、頸の自重が項靭帯の背屈モーメントを打ち消さなくなるんじゃないかと思います。もしそうなら、これを腹側”頸長筋"(*)などで拮抗する必要があります。そうすれば、そのすぐ深部にある頸動脈を圧迫できそうです。

*: ヒトの頸長筋は椎骨下筋系の位置にありますが、鳥の腹側頸長筋(と呼ばれる筋)は鰓下筋系の位置にあります。なので両者は相同ではなさそうです。本来的には後者には別の用語をあてるべきでしょう。



2.2. 椎骨動脈


頸気嚢を膨らませれば並走している椎骨動脈を圧迫できそうなのですれば、ここから脳へと動脈血を送れるかもです。頸気嚢には後ろから呼吸気が侵入してくるので、空気の流れ的にも後ろから前へ血管を圧迫してくれそうです。

cf. 頸気嚢には肺を通った呼気が流れ込みます。これは体温から熱をもらった空気なので、椎骨動脈の血液を温めて脳のオーバーヒートのリスクになりそうです。(内鼻孔が吻側にあるにも関わらず)外(硬)鼻孔が脳の近くにあるのは、このリスクを軽減するためにも重要だったのかも。



2.3. 荒ぶれ、バロサウルス!(始解)


上記二つを組み合わせて荒ぶる際のシナリオを考えてみました。

↓2本足立ちを始める際に、頸を腹屈して頸動脈を圧迫。

↓4本足立ちに戻る直前、頸気嚢を膨らませて椎骨動脈を圧迫。

これが頸の背屈モーメントを生じるので、着地時に下顎を地面に打ち付けるリスクを低減するかも?


ということで、呼吸周期一回分くらいの時間であればバロサウルスも失神せずに荒ぶれるかも? そんな短時間の威嚇でアロサウルスを追い払えないような気もしますが、荒ぶったあとのことは知りません。あとは頑張れ、バロサウルス!

 

(追記)

「そういえばニジェールサウルスみたいな顔のやつ、現生にいるな」と思い、カバの採餌運動を見てみた。意外や意外、他の有蹄類と異なり彼らは殆んど唇を動かしてるようには見えない。草を引っ張るのは抑々些細な動きで十分だったのかも。(つまり、1.に関しては議論の前提がズレてたかも)


 
  • Schwarz-Wings and Frey, 2008, Palaeontologia Electronica 11(17)

  • Lee and Slowiak-Morkovina, 2023, Phys. Teach. 61

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