先日、画家の山本聖士さんから恐竜画のポスターをいろいろ購入しました。
リアルな生物画は生物のように観察/考察したくなります。絵に限らず、こうやって思索を回すための着火剤になってくれそうものはなるべく手元に置くようにしてます。
ということで、これらを眺めてるうちに自分の中で少し考えがまとまったので、ブログにまとめました。
1. 肉食 vs. 植物食
顎が真っ直ぐだとハサミの様に遠心から順に咬合するので、テコ比(モーメントアーム)の微調整や裂肉がしやすそう。
顎が曲がってるとプライヤの様に咬合面全体が同時に咬合するので、植物の把持/磨り潰しがしやすそう。
Fastovsky&Weishampel(2015)より
2. 植物食:哺乳類 vs. 鳥盤類
哺乳類では歯骨(下顎枝)が伸びることによって顎関節(*)が咬合面より上に位置します。ということで、閉口の際に下顎は前にスライドしながら磨り潰します。哺乳類には筋性唇があるので、食物が前に行っても後ろに戻せます。哺乳類の系統では、植物食への専門化が進むよりもずっと昔に方形骨が中耳に取り込まれてしまったので、哺乳類にはそもそも「(方形骨を伸長して)顎関節を咬合面よりも下に位置させる」という選択肢はなかったようにも思います。
鳥盤類では方形骨が伸びることによって顎関節が咬合面より下に位置します。ということで、閉口の際に下顎は後ろにスライドしながら磨り潰します。双弓類には筋性唇が無いので、食物が前に行っても後ろに戻せません。ということで、鳥盤類にはそもそも「顎関節を咬合面よりも上に位置させる」というのは非効率的な選択肢だったようにも思います。ちなみに、鳥盤類の場合は植物食への特化が進むと吻端が腹側に曲がります(Button&Zanno, 2020)。これは下顎が後ろにスライドするからこそ可能な形態に思えます。
*: 機能形態の話なので、ここでは形態学的相同性は問いません。
3. 鳥盤類の頬
鳥盤類の咬合では、冠状面では上顎歯が外側にきます。ということで、咀嚼した植物は上顎歯によって下顎歯の外側(頬側)に押されます。これを受けとめる軟組織が必要でしょう。
Fastovsky&Weishampel(2015)より
しばしば哺乳類のような頬が彼らに復元されることがあります。しかしながら、双弓類には表情筋が無いので、収縮性の頬は期待できません(**)。となると、往年のパペットのように閉口時に頬が外側に飛び出してしまうでしょう。それが起きないほど伸縮性のない/背腹に短い頬であれば、開口を阻害してしまうので咀嚼にはナンセンスです。
Walking With Dinosaursに登場したレエリナサウラ
ヘインズ (2006)より
**:
角竜類にはオウム類の偽咬筋(Tokita et al., 2013)のような筋の存在が仮定されることがありますが(e.g., Taylor et al., 2017)、本当に存在してたのかどうかは僕にはわかりません。化石のテクスチャを確認しないと判断しようがないですが、少なくともあまり節約的な推論ではないように思います。鳥類のように頬より前の部分で(プロ)キネシスできない動物にとっては、前述の通り開口を阻害してしまう軟組織が存在してるとナンセンスな感じがします。
となると、頬は頬でも、「下顎からせり上がってるけど上顎とは繋がってないような頬」があったんじゃないかと思います。ということで、山本聖士さんのエドモントニアのような頬が、いちばん理に適った復元なのではないかと思います。
このタイプの頬は今のところ鎧竜でしか直接的な証拠はありませんが、個人的にはこんな感じの頬が鳥盤類の一般形なような気がしています。知らんけど。
(参考)
Fastovsky&Weishampel (真鍋,藤原&松本 訳), 2015, 恐竜学入門
松村, 2001, 古生物百物語 其の三 口裂け恐竜復活!?
Button, D. J., & Zanno, L. E. (2020). Repeated evolution of divergent modes of herbivory in non-avian dinosaurs. Current Biology, 30(1), 158-168.
Tokita, M., Nakayama, T., Schneider, R. A., & Agata, K. (2013). Molecular and cellular changes associated with the evolution of novel jaw muscles in parrots. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 280(1752), 20122319.
Taylor, A. C., Lautenschlager, S., Qi, Z., & Rayfield, E. J. (2017). Biomechanical evaluation of different musculoskeletal arrangements in Psittacosaurus and implications for cranial function. The Anatomical Record, 300(1), 49-61.
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